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HAGAKI
RESEARCHERS COLUMN

インターメディアテク・レコード・コレクション(9)
ありがたき海賊盤

 ストリーミングやダウンロードの時代に、レコード会社は権利を守って従来の利益を上げる方策に苦慮している。ところが音楽産業黎明期は随分デタラメな時代だった。サンプリングはおろか、引用や盗作は当たり前で、レコードを違法に複製した「海賊版」も大量に出回っていた。しかし、ありがたい海賊版もある。1939年8月にベニー・グッドマンのバンドに入団したチャーリー・クリスチャンは、SP盤が許す短い演奏時間内で、驚異的なソロを残している。しかし一日の仕事が終わると、クリスチャンはハーレム地区の「ミントンズ・プレイハウス」でケニー・クラークら若き仲間と夜明けまで共演していたという。グッドマンの束縛や録音の制限から解放され、より自由に実験していた。そこに、若きジャズ・ファンのジェリー・ニューマンが録音装置を持ち込み、その録音をレコードとして発売した。当時、権利をクリアしたとは到底思えないが、この海賊版はいまや、急死したクリスチャンの本来のスタイルを知るうえで欠かせないものになった。

大澤啓(東京大学総合研究博物館特任研究員)

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