カラスの撮影のために日本に来た海外の映画チームを案内して、渋谷を歩いた。といっても監督とカメラマン、音声、そして日本側コーディネイターの4人で、フットワークはすこぶる軽い。朝、ゴミを漁るカラスを撮影した後、私たちはセンター街のビルに登り、カラスと同じ視点から街を見た。眼下には人間のビジネスアワーが始まりつつある大都会。数時間前までは、歓楽街として賑わっていた辺りだ。そして、その二つの時間帯が切り替わる夜明け、徹夜で飲み歩いた人々が始発電車を待って引き上げる頃、ゴミを求めてハシブトガラスがやってくる。人間は地べたを、カラスたちは上空を、2つのレイヤーが重なり合うように、言葉の通じない2種の動物が、お互いを微妙に避けながらすれ違ってゆく。スイス人の監督がこの街を撮影したのは、ソフィア・コッポラの映画「Lost in translation」のスクランブル交差点のシーンが念頭にあったのではないか、と考えてしまった。
松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)