空間や立体物を2次元で表現するにはいくつかの図法がある。仮に直方体を描くとして、もともと平行な線を平行に描くのが平行投影法、点に収束するように描くのが中心投影法である。前者の例としては、真上から見た平面図、真横から見た立面図、斜め上から見た軸測投影図がある。一方後者は、線遠近法としても知られる透視図である。さまざまな図法は我々の空間概念の多様性に呼応している。先史時代のラスコー洞窟壁画では既に動物の並列/前後関係が描かれている。エジプト美術では人物を立面的に描き空間を上下に重ねていく。日本美術では平安以降の絵巻物等で軸測投影に近い図法が頻用される。西洋では中世以降に遠近表現が生まれ、ブルネレスキとアルベルティによって透視図法が理論化された。同じ大きさの物でも遠くにあるほど小さく見え、平行線であっても点に収束して見える。絵画における空間表現の展開は、このような実体と認識を架橋する方法の歴史でもある。フィレンツェのウフィツィ美術館には4人の画家による「受胎告知」がある。古い順に見ると、マルティーニでは物の前後関係が意識され、バルドヴィネッティでは遠近表現が顕在化し、ダ・ヴィンチにおいて透視図的な空間が完成し、ボッティチェッリでは空間の分割が精緻化する。図法は空間を発見するツールでもある。
松本文夫(東京大学総合研究博物館特任教授)