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HAGAKI
RESEARCHERS COLUMN

トロンプルイユ

 スウェーデンなど大理石資源の乏しい地域では、城や豪邸の室内壁を大理石に見せかけるように、騙し絵(トロンプルイユ)の技術を持って木版を塗装していた。さらに時代を遡ると、ファン・エイク兄弟による『ヘントの祭壇画』(『神秘の子羊』)など多翼祭壇画のパネルには、空間の奥行きを表現するために建築的要素や彫刻が騙し絵で表現されている。騙し絵は文字通り絵画の技法であり、平面を観ながら奥行きや素材感の錯覚を覚えるように工夫されている。ではトロンプルイユを絵画以外の分野に用いたらどうなるか。開催中の『石の想像界』展には、さまざまな「石」が展示されている。その「石」は銅、ポリウレタン、紙、食品用着色料などありとあらゆる素材でできてある。鑑賞者が「石」という概念を念頭にそれらと向き合うと、期待が外れる。トロンプルイユの偽石は極めて軽量であったり、極薄であったり、溶けたりすることもある。これらの作品は、石の外見を保持しつつ、石を石として認識するうえで最も重要な特徴を除外している。

大澤啓(東京大学総合研究博物館特任研究員)

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