小石、石、岩、露頭、岩壁。ミュージアムや画廊に行くと、規模や形状を問わず、様々な「石」が原形のまま、「作品」として展示会場に置かれている。数千年にわたる複雑な気象要因によって形作られた石は、それぞれ固有のフォルムを持つ既成の彫刻である。マルセル・デュシャンが日常的な工業製品を「レディメイド作品」として美術展に運び込んだように、石が「自然のレディメイド」としてそのまま作品に組み込まれている。天産物である石を環境と文脈から切り離すことによって、その形とテクスチュア、その影やその生成方法は新たなイメージや物語を生み出す。工業製品と違って、石には人間の想像を絶する時間性が宿る。「ファウンド・オブジェクト」としての石を作品に組み込むことによって、その作品自体が、人類を超越する次元に開かれる。しかしそのなかで、芸術家の仕事は一体とこにあるのか。石を細かく刻み込む彫刻家とは対照的に、レディメイド作家は物質の移動と組み合わせ、そして脱文脈化によって「作品」を生み出す。写真はシグルドゥール・アルニ・シグルドソン作の『隠れた世界の陰(犬)』(2018年)。
大澤啓(東京大学総合研究博物館特任研究員)