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HAGAKI
RESEARCHERS COLUMN

比喩としての石切場

 地球上に鉱物的世界が存在するとしたら、洞窟がそのイメージに最も近い。ラスコーやショーヴェ洞窟の壁画は原始絵画の傑作として賞賛されるが、同様に、洞窟そのものも、人類の最初の住居そして原始彫刻の傑作として見なすことができる。植物のない洞窟は、岩の多い不毛の地と同じように、人類の原風景を想起させる。石の想像界の根底には、独自の時間性を有する地殻、有機的な生命界から独立した物質のイメージがある。この物体には特定の形がないため、人間が無形の物質に対して感じる恐怖の対象にもなる。豊かな土壌に育つ植物界と有機物は常に、その底に広がる無機の露頭に飲み込まれ、無形の状態に戻る恐れがあるからである。ヒトが石に施す基本的な行為は、まず石を石として無形の地殻から切り離すことである。その瞬間に、石切場が生まれる。露頭や岩から破片が切り出され、意図的なフォルムを与えられた途端、石が誕生し、有益な材料として人間の活動域に組み込まれる。その意味では、石切場はヒトによるあらゆる創造活動を連想させる。ヒトが無形の物質を有形のものに加工する基本的活動であり、抵抗する物質を材料に変えるプロセスである。とはいえ、地殻から切り出された石はその後も、本来の特徴を続けて持ち合わせる。地質的世界の名残として、石は人間の意図に抵抗し、人間の活動域に置かれても反応しない。

大澤啓(東京大学総合研究博物館特任研究員)

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