JP Tower Museum INTERMEDIATHEQUE
HAGAKI
RESEARCHERS COLUMN

ミュージアムとジェンダー

 ウプサラ博物学三代、ルドベック、リンネ、ツュンベルクの活躍した時代の学術界は男性中心であった。その中にあって、今回の特別展示出品物の作者名に見える唯一の女性が画家アンナ・マリーア・テロット(1683-1710)である。父親に手ほどきを受け、兄弟とともに様々な出版物や美術の仕事に携わったが、女性である彼女には自分の才と技により独立した美術家となる環境は与えられなかった。『「花と果実」スケッチブック』が展示に組み込まれていることは、この事実に思いを至らせ、当時の男性中心社会を生きた女性の存在を無視していない点において、意義をもつ。インターメディアテクに展示している帝大時代の学術遺産もまた、いかに「マッチョ」な世界にあったかという事実は、例えば館内の肖像画や肖像彫刻がすべて男性像であることからわかる。歴史的事実を変えることはできないが、現代的な問題意識をもってそれを眺める観点はミュージアムが新たに創出し得る。東京大学の歴史を伝える資料体をいまここで公開し、未来に残していく意味を問うために、ジェンダーの問題をどう扱うのか。考えるだけではなく、行動に移していかねばならない。

寺田鮎美(東京大学総合研究博物館特任准教授)

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