いくつもある出版計画のなかで、最初に具体化したいと思っているのが『村上善男●頌』である。弘前大学で教員生活を送るなかで、知り合い、以後長くつき合いのあった美術家村上善男との交流を綴ったもので、書簡や原稿によって、村上の人となりや、考えを語らせたいと考えたのである。美術家が没するまで多くの手紙をやりとりした。村上の送り届けてくる手紙や郵便物は、文章のかたちで表明された精神においても、また書簡や小包のかたちに込められた造形においても、実に美しかった。だから、すべて捨てずに取っておいたのである。もちろん、それが一冊の本に纏まるだろうなどとは、つゆほども思わなかったわけであるが。村上から教わった言葉に「荷姿」というのがある。いまや、郵便小包の時代ではない。ために、紐の掛け方にも、切手の貼り方にも、美学的な判断の介入する余地などなくなってしまった。しかし、「荷姿」には送り主の人と成りが現れる。だから心せねばならないのである。
西野嘉章(インターメディアテク館長、東京大学総合研究博物館特任教授)