登り龍
IMTの正面玄関から入った瞬間、目に飛び込んで来るのが、壁に直立する巨大な骨格だ。しばしば恐竜と間違われているが、ワニである。全長は7.6メートルほど。これはマチカネワニ、大阪大学吹田キャンパスを造成中に発見された化石のレプリカで、原野農芸博物館より寄贈されたものだ。マチカネワニは40〜50万年前、日本にも分布していた。現在はマレーガビアルと同じTomistoma属とされているが、提唱された学名の一つToyotamaphimeiaは、海神の娘であり、その正体が鰐であった豊玉姫にちなむ。日本では数十万年前に絶滅したマチカネワニだが、中国ではもっと後まで残っていた可能性はあり、有史時代になっても生存したとする意見さえある。水面を割って浮上する巨大なワニの姿が目撃され、龍の伝説を生んだかもしれないのだ。今、IMTの「龍」は天を目指すかのように設置されている。
松原始(東京大学総合研究博物館特任准教授)