先月、スウェーデンのウプサラ大学博物館「グスタヴィアヌム」にて特別展示『雲の計測――阿部正直が見た富士山』を設営してきた。富士山の山頂に現れる雲を絶え間なく撮影し、その生成過程と種類を分析し続けた阿部正直(1891-1966年)の先駆者は、実はウプサラにいた。1896年にパリで初めて出版された『国際雲アトラス』は、ウプサラに研究拠点を置いていた気象学者ヒューゴ・ヒルデブランド・ヒルデブランドソン(1838-1925年)の主導のもとで構想された。今でも日本の雲を見慣れた目でウプサラの秋の空を眺めると、独特な広がりと濃度を持つ雲が目立つ。雲はどこでも雲であるが、地域によってその形が限りなく変化しているように見える。19世紀末にヒルデブランドソンとともに世界各地の雲の共通点を探り、普遍的な雲の定型を定めたラルフ・アバークロンビーやアルベルト・リッゲンバッハの斬新な着想と偉大な計画に改めて感心した。
大澤啓(東京大学総合研究博物館特任研究員)